どうなるインバウンド消費 『新型コロナウイルス』影響は1千億円以上!? 影響予測と減収をカバーする対応策は減収をカバーする対応策は

USPジャパン代表取締役社長 / ジャパンショッピングツーリズム協会代表理事・事務局長 新津研一

観光客が激減した春節休暇最終日の銀座


 例年なら「春節商戦速報」が話題となるこのタイミング。「新型コロナウイルス」は、中国人観光客動向を左右する最も重要なトピックスとなり、市況を一転させた。

 訪日旅行中止が団体旅行に限定されていること、渡航中止が休暇スタートから数日経過していたこと、訪日ツアーが人気となり前年を上回る予約状況であったことから、主要小売店からは「春節期間中の売上げに大きな影響は出なかった」との声が多い。

 主要百貨店の春節期間中の免税売上高は最大2割から5%減と一部報道が伝えたが、これは直近の売上げトレンドと大きな乖離は無く、北海道、東京、名古屋、関西、九州各地には2けた増の売上げを記録している百貨店の店舗もある(USPジャパン独自調査)。このことから、春節期間の売上げに対し、新型コロナウイルスの影響が大きなマイナスを及ぼしたとは言い難い。

 一方、その後の感染拡大により、感染者は10.7万人、死者は3800人を超えた(3月9日12時現在、厚生労働省発表)。「団体旅行のキャンセルが相次いでいる」という声はホテルに限らず、団体ツアーゲストの訪問先となっている空港周辺や郊外のショッピングセンターからも聞かれ、「春節以降、影響は顕著になっている。いずれ、大きな影響になる」のは間違いない状況だ。

収束までは最低でも3カ月間はかかる?

 今後の訪日中国人ゲスト減少の影響を予想するのは簡単ではない。しかし、自体収束までの期間も、影響度の大きさも予測不能ではあっても、リスク想定が必要だ。2003年に発生したSARS感染は、3月12日に世界保健機関(WHO)がグローバルアラートを発令し、封じ込め成功を宣言する7月2日までに3.5カ月を要した。

 SARSと今回のケースを比較すると、封じ込め対応が格段にスピーディかつ驚くほど徹底していることがプラス要因であるものの、発生タイミングの違い(発生時期が早いため、気温・湿度の上昇まで時間がかかる)や、交流人口が格段に増加していることがマイナス要因になっている。これを踏まえると、少なくともSARS同様の3カ月間の影響想定は、最低限のリスクシナリオだろう。

 昨年のこの時期、3カ月間で中国人ゲストが214万人訪日(2~4月)し、3638億円を買物代として消費(1~3月)した。仮に、半減と想定した場合、3カ月で約100万人、1300億円程度の減少。先月までの客数トレンドが約15%増であるため、実際には約135万人、1850億円程度の機会損失になるともいえる。

 事態収束まで長期化した場合や半減以上の影響となれば、損失はさらに大きくなる。これに続く4~6月は、春節時期よりも客数が増加し、消費額は2464億円(昨年4~6月実績)に達する。さらに客数が増加するサマーホリデーシーズンや、オリパラ開催時期までには、何とか収束を願いたい(データは、いずれも日本政府観光局「訪日外客数」および観光庁「訪日外国人消費動向調査」)。

今、小売・飲食業者が取り組みたい2つのこと

 国際観光ビジネスにはさまざまなリスクが付き物だ。これまでにも国際紛争や天変地異、為替変動によって大きな売上げ影響を受ける事例がたくさんあった。こうした環境を前提に、2つの心構えで対応したい。

 1つ目は、リスクが発生することを前提とした計画、つまり事前の心構えだ。今回のようなリスク発生時に、仕入れや店舗運営、宣伝・販促の変更を実施できる体制、負担を最小限に抑えられる柔軟な計画立案が重要だ。

 2つ目は、情報発信・コミュニケーションの継続だ。これは今回の中国市場に限らず、国際関係の冷え込んでいる韓国市場についても言えるだろう。訪日期待が薄くなった時に、急に情報発信を中止し、コミュニケーションをやめる企業は少なくない。しかしながら、ゲスト視点に立てば、都合のいい時ばかりラブコールを送り、苦しい時にいきなりそっぽを向く態度に映ってしまう。尖閣問題発生時にこぞって台湾旅行社にすがったはずの自治体が、問題解決するや否や台湾に背を向け、中国プロモーションを再開した事例がある。その後、台湾旅行社から相手にされなくなったことは言うまでもない。

 ツーリズムは、長期にわたる信頼関係、ブランディングの構築が重要だ。リスク回避のための広告費抑制はやむなしだが、困っているゲスト視点に立った店頭、Webでのメッセージや基本情報の発信が必要だ。

 この客数減少のカバーは重要でありながら難しい課題だ。中国人ゲストは訪日ゲストの3割を占め、このカバーは簡単ではないのだ。韓国・台湾・香港市場は既に飽和状態に近い。

「ASEAN・欧米豪の780万人市場」にも取り組もう

 期待されるのは、ASEAN・欧米豪の780万人市場(年間)だ。この市場は2020年に約1000万人に達し得る伸長率を維持しており、比較的滞在日数の長い有望市場だと以前から言われてきた。しかし一方で、中国人ゲストの半分に満たない単価の低さ、文化や文字、体形、趣味・嗜好まで私たちと似ている東アジアゲストとは異なる、独特な嗜好に対応しなければならない。

 ショッピングに限れば、タイやベトナム・ロシアからのゲストは消費単価が比較的高く、ターゲットとして狙う小売店が増えることも予想される。さらに、注目すべきは、飲食店や食物販での対応による欧米豪、ASEANゲスト誘客策だろう。新型コロナウイルス発生以降、問い合わせが急増しているのがベジタリアン・ハラル対応だ。

世界のフードダイバシティ人口の例 (フードダイバーシティ株式会社調べ) 


専門家として全国各地の飲食店、食品メーカーの対応を具体的にアドバイスするフードダイバーシティ(株)の守護彰浩代表は「世界標準で見れば、ベジタリアン、ムスリムがマジョリティ。何でも食べる日本人はマイノリティです」「ラグビーワールドカップ開催時も、ベジタリアン対応した飲食店が、欧米ゲストの集客に成功した」と話す。

 多彩な食文化に慣れ、日本の食に誇りを持つ私たちが見落としてしまう世界のトレンドが食のダイバシティだ。オリンピック・パラリンピックを直前に控えているにもかかわらず、残念ながら「ベジタリアン」「ビーガン」「グルテンフリー」「ハラル」などの表記は、飲食店でも食物販店でも目にする機会が少ない。中国市場激減対応を検討する上で、最優先で取り組む価値のある施策といえる。

 いずれにしても、中国・武漢市で発生した新型コロナウイルスの感染拡大について、お亡くなりになった方のご冥福と、罹患された方の早い回復を祈り、さまざまな立場で各国の感染防止に取り組む方を応援し、私たち自身も感染拡大の阻止および事態の収束に取り組みたい。

困ったときに役立つ情報とサービスもある

 最後に、冷静な状況判断には、正確な情報の把握が欠かせない。マスコミ報道だけでなく、最低でも政府対応をまとめた「新型コロナウイルス感染症対策」のWebページは把握しておきたい。

 小売店、飲食店店頭における訪日ゲストへの情報提供の観点では、感染が危惧されるお客さまに対応するための情報提供、コールセンター設置を日本政府観光局が行っている。告知用の案内チラシが用意されているので、店頭、レジ周辺への掲示や配布に活用したい。

 当協会が事務局を務める多言語対応協議会小売プロジェクトチームも、中国ゲスト対応を強化した多言語コールセンターを、全国の小売店を対象として、利用料金無料で試行提供しているので活用してもらいたい。


初出:商業界オンライン 2020年2月10日 http://shogyokai.jp/articles/-/2442

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