サステナビリティ事業

持続可能な地域づくり先進地視察研修

   

観光庁の令和4年度持続可能な観光推進モデル事業の研修として、持続可能な地域づくりを先進的に行っている熊本県阿蘇市へ視察に行きました。今回はその内容をお伝えしたいと思います。

     

千年の草原とスラロームライド体験

 
普段は入ることのできない千年の草原をスラロームライドで走る
   

研修は2日間にわたって行われました。阿蘇市の持続可能な観光に関する取り組み、中でも①「千年の草原」の保全と活用に関する取り組みとアクティビティ体験、②持続可能な商店街運営と農村集落運営の見学、③道の駅の取り組み見学、について、印象的な内容に絞ってご紹介します。
まず始めに「千年の草原」の持続可能な取り組みとアクティビティ体験についてです。
阿蘇地域は、世界農業遺産でもある千年の草原を、野焼きや牛馬の放牧など、人の手を加えることで長きにわたって維持されてきました。
「牧野(ぼくや)」という地域資源にスポットを当てた「牧野ガイド事業」は2018年にスタート。牧野を管理する牧野組合と行政が相談して活用ルールを定め、そのルールに則って活動するガイドを育成・認定する仕組みを整備し、観光客に負担してもらう草原保全料を環境保全に役立てるというシステムが構築されました。
地元の民間事業者が牧野組合に使用料を支払って草原に入りアクティビティを提供する取組を始め、観光客が普段は入ることのできない阿蘇の草原でアクティビティを楽しみ、その参加料の一部が牧野の維持管理費用として還元されるという仕組みです。
牧野を活用したアクティビティは、当初はマウンテンバイクとトレッキングだけを提供していましたが、現在はトレイルランニングやグランピング、パラグライダー、ロープを使って溶岩壁を降下するラぺリング、ナイトトレッキング、コスプレ、ドローン、ウェディングフォトの撮影や修学旅行向けのアクティビティなど多彩なアクティビティを提供されているようです。
私は「電動アシスト付きマウンテンバイクでめぐる阿蘇山スラロームライド」を体験。火口から街中まで草原の中をライドするという希少な体験に感動!ガイドさんのユーモアのきいた案内で納得の価格でした。

     

阿蘇市をさるこう!地域散策イベント

 
阿蘇門前町商店街の水基
   

続いて、阿蘇のまち散策、持続可能な商店街と農村集落運営の取り組みについてです。
最初に行ったのは「阿蘇門前町商店街」です。阿蘇神社の参道は全国的にも珍しい横参道で、門前町商店街はその南北に発達してきましたが、大型店進出により、一時は衰退傾向にあったそうです。そこで、地域資源を活用した取り組みとして、商店街内に「水基(みずき:湧水兼水飲み場)」を設置し、それぞれの水基に「金運の泉」「酒杜の水」など、水基を管理している店舗にちなんだユニークな名前を付け、新たな観光スポットを創出。豊かな湧水を楽しむ「水基巡りの道」は人気の散策コースとなっていました。また、熊本特産の馬肉を使用したコロッケ「馬ロッケ(バロッケ)」、湧水を使った水出しコーヒーやシュークリームなど、地域性を活かしたオリジナル商品も販売されていました。このように身近な地域資源を見直し磨き上げることですばらしい観光資源となり、商店街活性化につながったという好事例でした。
次に、名水の里として知られる「手野(ての)集落」をボランティアガイドさんに案内してもらいました。こちらは地域の普段の何気ない生活を地元の方にガイドしてもらい、観光資源化している事例です。阿蘇神社と同じく由緒ある神社として知られる国造神社の手野大杉や上御倉(かみおぐら)古墳(中に入ることができる)、地域を潤す水源と水車、野営用のススキの小屋「草泊まり」など、珍しい地域の資源をガイドさんの解説でたくさん巡ることができました。こちらも観光客には有料ガイド付きで十分価値のあるツアーでした。阿蘇ではこのようなおすすめの地域資源を「サテライト」と呼び、地域ごとに観光客へ提供しています(現在96か所)。

     

道の駅阿蘇

 
様々な取り組みを行っている道の駅阿蘇
   

最後に、道の駅阿蘇についてです。
道の駅阿蘇は「NPO法人ASO田園空間博物館」が運営しています。
ASO田園空間博物館は、道の駅阿蘇をコア施設として、地域全体を屋根のない大きな博物館に見立て、地域住民が選んだ有形・無形の地域資源(サテライト)を展示物として活用し、地域の持つ自然・歴史・文化を発信しながら、地域内外の多くの人に体験してもらい、次世代に継承していく取り組みを行っています。前述した「牧野ガイド事業」や「地域散策イベント(手野集落)」は道の駅阿蘇(NPO法人)の地域づくりの主な取り組みとなります。
道の駅阿蘇は、地域の人しか商品が出荷できないルールとなっており、展示販売や出展者研究会、商品開発支援など、阿蘇の特産品の開発促進、地域経済の活性化につながる取り組みが数多くなされています。観光客よりも地元の買い物客の方が多く、店内は非常ににぎわっており、地域の情報発信・交流・経済活動の拠点基地として、非常に成功している道の駅であると感じました。

     

特有の自然環境を形成する阿蘇地域は「農業」と「観光」が基幹産業となり地域を支えてきましたが、近年の高齢化や伝統文化の衰退、観光客の減少により、農業と観光がリンクする仕組みづくりを行い、地域資源と経済をうまく循環させることに成功している地域でした。持続可能な地域づくりの先進事例として、他の地域でも参照できる部分は参照しつつ、今後の阿蘇の更なる取り組みに注目していきたいと思います。

 

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