地域振興事業

スペシャルインタビュー:和歌山県串本町様(第1回)

株式会社USPジャパンでは2年前より民間初のロケット発射場設営に伴い、和歌山県串本町より業務委託を受けて町民向けワークショップ等各種事業を展開しています。全国でも数少ないロケット発射場を軸とした新たな地域振興に取り組まれている田嶋町長のスペシャルインタビュー第1回です。
第2回:地域の子供たちがカギ
第3回:世界の串本町へ

写真:田嶋町長(左)とインタビュアー新津代表(右)

和歌山県串本町の歴史

新津:串本町の簡単な紹介と魅力のアピールからお願いします。

田嶋町長:串本町で先ず全国的に知られているのは台風のメッカだということです。いつも台風が潮岬沖に発生していましたが、最近少し温暖化の傾向もあったのか?ちょっとコースは変わってきましたが、この地域は台風で有名であったと思います。本来、この地区はカツオ漁を生業として栄えてきた町ですが、最近は残念ながらカツオがなかなか暖流の蛇行の関係で獲れなくなってきました。
串本は本州最南端、和歌山県の一番南に位置した地域です。串本町の最大の魅力は気候だと思います。年間の平均気温が17.5度、これは全国的に本当に珍しい気候に恵まれている様で、冬でオーバーを着ることもないですし、夏も大阪の近くですが大阪と比較しても串本町は必ず3度ぐらい低く、大変過ごしやすい町というのが特徴的でしょうか。
また、都心から離れていたということもあって、多くのいろいろな自然が残されている地域でもあります。そしてまた、昔はここで生活するということは本当に厳しかった地域ではないかと思っています。その影響もあって、ハワイとかブラジルとかカナダとかオーストラリアとか海外に船で出稼ぎに出られた方もたくさん居られて、そう言った意味では国際的な地域であったのではという気もしています。

新津:漁業の方は、かつては非常に賑わいを見せていたというお話しでありますが、関西地区の方々にとっては、夏になれば車で家族で串本、という観光のメッカでもあったわけですね。

田嶋町長:そうですね。正直、今までは和歌山県の南の方に来られたことありますか?と聞くとだいたい白浜止まりで、白浜のパンダを見に行ったことがありますと。そしてもう一つは串本を超えて那智の方に行って、那智の滝を見ましたと、この2フレーズがよく出てきていましたが、最近はちょっと変わってきまして、ちょうど白浜と那智勝浦町の真ん中にある串本に足をとどめてくれる方々も結構増えてきた様に思います。
串本ではエルトゥールル号というトルコの軍艦が今から131年前に遭難しましたが、これが映画化し全国ロードショーもされる中で、その地を見にいこうという方にたくさん来ていただけるようにもなりました。来ていただくと結構、海も綺麗だし、水平線も綺麗に見えて良い所じゃないかということで、最近は観光客の方もコロナで少し落ち込みましたが、増えてきているという状況です。

町が抱える課題 そしてロケットの町へ

新津:そんな中、串本町さんがこれまで抱えてきた大きな課題といったものはどんなところになりますか?

田嶋町長:やはり一番の課題は高齢化が進んできているということですね。高齢化が進むということは、いきなりお年寄りが増えるということではなくて、若い人が流出してしまう、外へ出て行ってしまうということ。何故若い人が外へ出て行ってしまうのかというと地元に働く場所がないという。それらが繋がって、現在高齢化率46.5%ぐらいの数値になってきています。
これまでは漁業の町として栄えてきたんですが、だんだん魚も獲れなくなってきました。今、そういった経済面において、またどうしてもお年寄りが増えてくると福祉の関係にも町として力を入れていかなければならない。その辺の施策を進めていくことに大変努力をしているところであります。

新津:なるほど。今回ロケット発射場スペースポート紀伊が誘致されたわけですけども、私も初めて聞いた時に大変驚きましたが、田嶋町長も最初にロケット発射場の話を聞かれた時はどんな印象を持たれましたでしょうか?

田嶋町長:よく、覚えています。2016年に関係者の方が今から5年、6年前になるわけですが、最初に来て、いきなりロケットの話でしたから。この串本町には航空自衛隊がありますので、ロケット発射場ということになると何か軍備的なものじゃないかということで、一瞬警戒をしました。
ただ、お話を聞いていくと、これからはやはり衛星の時代であり、その衛星も随分と小型化されてきている、と。現在、日本では鹿児島の内之浦、種子島と立派な発射場施設がありますが、そういった施設ではなくこれからは民間の発射場というのが、とても重要視されてくるし、必要が求められてきているというお話を聞きました。
そして発射場として、いろいろな条件が揃わないと建設されないようですが、串本町はその条件が揃いそうなので、その関係者より是非一度、協力していただけませんか?というのが最初のお話しでした。

新津:ロケット発射場建設においては今町長が言われた様な地理的な条件が整わないと、というところがあるかと思いますが、もう一つ非常に重要なのは住民の方の理解、賛同というところが自治体の長としては非常に悩ましく思われたところであったと思いますし、大変ご苦労もあったとお聞きしています。

田嶋町長:ある意味企業というのはシビアですから、例えば、この計画が進みだして10年も20年もかかるということを考えていかないといけません。土地の購入、発射場から半径1km間を全て購入とか、地元の同意とか、漁業者の方々のご同意とかそういう話がきました。
土地もそうですが、それこそ本州最南端の小さな町で、ロケットと言ったら、そんなに良いイメージは当時なかったと思います。最近になってテレビでもマスコミでもロケットの重要性、衛星の必要性など言われているので、意識は変わってきるのかも知れませんが、6年前となるとちょっと違っていたと思います。先ずはそこらをやはり理解して貰うというのが私たちの最初の仕事であったと思います。

ロケットは千載一遇のチャンス

新津:間もなく第1号発射が予定されているわけですが、先ほど仰っていただいた様に串本には美しい海だとか、歴史的に海外との繋がりとか、たくさんの観光資源があるかと思います。町長はロケットというのを特別な存在としてある意味観光という観点だけではなく、町政全般というか、住民の方の中心においても値するような価値だという風なお考えだと伺っていますが、住民の方、串本町にとってロケットというのはどういう意味を持つのでしょうか?

田嶋町長:これは、私だけでなく、あらゆる関係者の方々が千載一遇のチャンスととらえていると思います。このロケット事業というものは串本町だけではなくて、もっと大きな紀南地方、和歌山県を大きく動かすものじゃないかという風に思っています。
他のJAXAとか種子島の関連の事業は国が出てきてそれを解決するという様なことが有り得るわけですが、今回お話しがあったスペースワンさんに於いては、参画企業は勿論素晴らしい企業さんばかりですが、やはり民間企業ですので、交渉の過程で数人の方が絶対立ち退きはしませんよ、土地は売りませんよ、海に入っては駄目ですよといったことになってきたら、この事業は一遍にして崩壊してしまうことに成り兼ねなかったわけです。しかし、有難いことに町民の皆さん理解を頂けたということで有りましたので、その分、串本町としてはその期待に応えられる部分を作り上げなければならないと思っています。
また、もう一つ串本町を含むこの地域は熊野古道とか歴史的な文化とか芸術とかいろいろ有るわけですけども、そこに日本の最先端の技術をミックスしていくというのは最大の魅力に繋がるのではないかと思うところです。例えばロケットの打ち上げを見に来て頂いて、そこをきっかけとして串本の素晴らしい自然を堪能して貰えるというような、そういう観光メニューもいろいろ作り上げていけるという風に思っています。

第2回につづく

【実施時期】2022年5月29日

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