第1回:社会課題の解決こそ「旅」が果たす大きな役割
第3回:付加価値ではない。見磨き上げる商材こそ価値そのもの
田川博己(たがわ・ひろみ)
一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会(JSTO) 会長
株式会社JTB 相談役
1971年株式会社日本交通公社(現株式会社JTB)入社。川崎支店長、米国法人副社長などを経て、2000年取締役営業企画部長就任。その後、常務取締役東日本営業本部長、専務取締役旅行事業本部長を歴任し、2008年代表取締役社長、2014年代表取締役会長、2020年取締役相談役。現在に至る。一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会(JSTO)会長も務め、旅行業界の発展や地位向上、ショッピングツーリズムの重要性を提起するなど、観光振興発展の一翼を担っている。
観光再開にむけて。これからが絶好の機会
新津:田川さんの考える訪日市場の価値とショッピングツーリズムに取り組んだ経緯についてお聞かせください。
田川:先ほどのお話の通り、当時ニューツーリズムの動きが活発に動き始めていました。例えば体験・経験に関するグリーンツーリズムとか、健康に関するヘルスツーリズム、アドベンチャーツーリズム、食や宿泊に関するものなどに中心が置かれ、直接経済に関すること、いわゆる土産物などの消費財購入に関することは少なかったと思います。だから、観光庁の観光立国の中に、ショッピングが書いてないっていうのは、そういうことだと思うんですよ。土産物のような消費財、小売に関することは、議論がつくのかってとこなんです。どうしても宿泊数を増やすとか、コンテンツをたくさん作るとか、食で考えても酒蔵ツーリズムのように、「お酒をたくさん買いましょう」という話にはならなくて「お酒を楽しみましょう」となり、「体験にもたくさんお金払いましょう」ではなくて「体験する種類を増やしましょう」のように、感性的な消費の方に回って、経済的消費財にならないっていうのが、どうも感覚的にずっと当時あったんですよ。そういう意味でも、新津さんが最初に提唱したショッピングツーリズムは、これはいいなと思いました。
田川:観光立国推進基本計画の中で、インバウンド6000万人、消費額15兆円という記載がありますが、私はやっぱり15兆円っていうのは大きいなと思います。ところが、さきほどのコンテンツだと15兆円はいかないと思っています。せいぜい7.5兆円。残りの7.5兆円は直接的な消費財じゃないと売れないと思います。極端に言ったらインバウンドで不動産やマンションを買うとか。そういうのを入れないと、達成できないと思います。中国人が日本のマンションを別荘代わりに購入してもらうとかね。この消費額を満たすためには、いわゆる旅行消費額だけでは難しく、ショッピングをいかに推奨しながらその額を増やすかが大きな焦点でした。また、日本では外国人に対する免税消費の仕組みと体制が不十分で、その取り組みを同時に進めることもしてきました。
全国的な取り組みを展開するための組織として、新津さんとともに私が会長を務めるジャパンショッピングツーリズム協会(JSTO)を組織したのは2013年でしたね。パンデミックによる約2年の時間ロスはありましたが、これからが本番を迎えると言っても過言ではないと思います。2年間で日本のマイクロツーリズムをやりながら、日本の良さを実感した人も多いでしょう。リアルで触ったり、リアルで体験しなきゃダメだなってことも実感した人も多いと思います。JSTOの動きが地域経済に寄与することは、一定の理解を得ていると思います。今後は、「商材の開発」と「磨き上げ」、その「流通の在り方」という、この3つをJSTOの活動を進化させるための大事な視点なんじゃないかなと思います。特に流通は百貨店や地元のデパートが、お客様が来た時に売れる環境を作ることが重要です。そういう環境ができれば、お客様に商品ストーリーのPRができます。そうすれば免税で買うか本物を買うのか。20万円する柿右衛門のコップを買ってくれたり、リヤドロの代わりに10万円の博多人形を買って帰るということもあると思います。磨き上げというのは価値を高めて単価も当然上がって然るべきだと思います。値上げをすることが目的ではありませんが、価値を上げて高く売る。それで免税という仕組みを使うというのは、リヤドロやバカラも同じですが、みんなそうやって、帰り際の空港で精算して僕ら帰ってくるんだけど、何万円も戻ってくるじゃないですか。20〜30万円の買いものをして、1〜2割戻ってくるんだからね。すごく儲かった気がするんですよね。(笑)
新津:得したって気持ちになりますね。
田川:そういうのがまた買いものに行こうという意欲を掻き立てます。海外旅行に行くと必ずパリに行ったらこういうものを買おう、またバカラに行って新しいものを買おうと思って、家中がバカラになってしまって、切子にならないんだよね。これが日本人の特性なんだなと思います。
新津:ありがとうございます。そうすると、この2年間は今水を差されたように感じてしまう方もいたのかもしれないですけど、先ほど仰った地域の資源を見つめ直して、リ・スタートするにはもう……
田川:絶好の機会、という風に僕らは言わないといけませんね。
【実施時期】2022年6月15日