私はジャパンショッピングツーリズム協会の公式サイト「ジャパンショッピングナウ」(以下JSN)で、訪日ゲスト向けに新しい施設や体験を取材し紹介しています。2年前に東京から大阪に転居し、大阪・京都を中心に関西エリアの施設、お店を紹介していますが、取材の中で感じる訪日ゲストの動向を、以下の3点を中心にご紹介します。
①オーバーツーリズムの問題は?
②訪日ゲスト国の状況?
③海外の企業が、日本に出店する際、どの都市を選んでいるのか?
オーバーツーリズムに対する地元の声は、重要な事は何か!
訪日ゲストによるオーバーツーリズムの問題を良く耳にします。大阪・心斎橋筋商店街を歩けば、通行人の90%が訪日ゲストであり、売り上げの80%が訪日ゲストという専門店も多く、京都の祇園や嵐山も同じ状況です。ただ、もっと訪日ゲストに来て欲しいと考える観光スポットやお店も多いのも事実で、限られたスポットやお店に集中しているのが現状です。
京都・祇園での迷惑行為について、祇園で祇園・花街芸術資料館を運営される方は「オーバーツーリズムはどこにでも起こり得る問題であり、訪日ゲストが芸妓さん、舞妓さん達の素晴らしい伝統や文化を知り、祇園で生活する姿を見れば、ルールを守る様になる」と言います。そして伝統・文化の素晴らしさを伝える情報発信力の重要性を指摘します。問題を嘆くだけでなく、日本の伝統や文化、生活スタイルを訪日ゲストにしっかり伝え、共有できれば、オーバーツーリズムの声も少なくなると感じています。
訪日ゲストはより多様になっている!
2024年の訪日ゲスト数は1位韓国、2位中国、3位台湾※と昨年同様の順位ですが、特に京都では訪日ゲストが多様化しているとの声が多く聞かれます。東欧、中東、中米のメキシコや南米のスペイン語圏からの訪問者も増えています。ただし、大阪と京都では訪日ゲストの国別状況が異なります。
大阪は「買い物と食の街」というイメージが強く、韓国や中国を含む東アジアや東南アジアからの訪問者が多いです。一方、京都は神社や仏閣などの伝統・文化体験を求めるイメージがあり、欧米の方を中心に訪れています。奈良・ならまちでも同様の傾向が見られます。
※データは日本政府観光局発表の10月までの数値です。
■将来的に訪日ゲストはどこの国が増ええていくのか?大胆予測!
まだ訪日ゲストの数は少ないですが、将来的にメキシコからの訪問者が増えるのではないかと私は予想しています。各種のデータを基に、同じ親日国で訪日者数が3位の台湾と比較し予測してみました。 メキシコは人口数、平均年齢、GDP総額、訪日者数の人口比を見ても、将来訪日国上位になると思われます。今年メキシコに行った際、親日的で想像以上に若い人が多く活気があることや、メキシコ人の行きたい国ランキングでアメリカ、ヨーロッパに次ぐ第3位に日本がなっていることを現地で聞きました。現状日本とメキシコとの直行便は成田-メキシコシティしかなく、飛行時間が約14時間という課題もありますが。
項目 | 台湾 | メキシコ | 日本 | |
1 | 国土面積 | 35、980km3 | 1、960、000km3 | 370、000km3 |
2 | 人口 | 2、342万人 | 12、601万人 | 12、435万人 |
3 | 平均年齢 | 42.46歳 | 29.17歳 | 48.36歳 |
4 | GDP総額 | 7、916億$
22位(昨年21位) |
19、941億$
11位(昨年14位) |
42、861億$
4位(昨年3位) |
5 | 一人当たり名目GDP | 32、687ドル
32位 |
11、265ドル
73位 |
33、853ドル
31位 |
6 | 2023年 訪日者数 | 4、202、400人 全体3位 | 94、700人 全体15位
※2024年は昨年対66%UP(2024・10月段階) |
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7 | 2019年比訪日者数 | -14.1%
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+32%
増加率全体1位 |
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8 | 訪日者数の人口比 | 17.9% | 0.075% | |
9 | 一人当たりの消費額 | 187、921円(全体平均の88.6%) | 統計数値無し |
※国土面積、人口はウイキペディア メキシコ:2020年 台湾:2023年 日本2023年(総務省統計局)
※GDP総額はIMF 2024年集計
※訪日者数、一人当たりの消費額はJNTO 2023年集計値
一人当たりの消費額 各国平均は21.2万円
海外企業が日本での出店を、東京ではなく京都を選択している!
今や世界中の人々が行きたい都市の上位に選ばれる京都。その理由は、他では味わえない伝統と文化体験の素晴らしさに尽きます。アニエス・ベーの「agnes b. CAFE 祇園店」、今年エスティローダーの人気フレグランス「LE LABO」、台湾靴メーカーの高級茶席体験の海外1号店「POU YUEN JI KYOTO」などの出店場所として京都が選ばれ、その傾向が増えています。POU YUEN JI KYOTOの運営者は「京都の伝統と文化は素晴らしく、世界から人が集まり私達のブランドにピッタリです」と言います。
店作りでは、日本の伝統・文化を深く研究し、その良さをインテリアデザインや特別な体験に反映しています。各店舗が、日本の古くからの伝統・文化を日本人以上に敬愛していることも共通しています。私達は新しいことに目を向けるだけでなく、何気なく触れている伝統・文化にもう一度目を向け、その素晴らしさを再認識し、上手く活用すべきだと痛感します。
■訪日ゲストに+α体験ができる施設、お店が大人気。
訪日ゲストには、ユニークな体験ができるお店が人気です。お茶に関するお店で言えば、「一保堂茶舗京都本店」では様々なお茶の体験ができ、宇治の「売茶(ばいさ)中村」では日本初のその場で揉んだお茶を飲み、揉み体験ができます。また、「POU YUEN JI KYOTO」では日本庭園を眺めながらクラッシク音楽を聴き、8、000円の高級茶を楽しむことができます。これらのお店は多くの訪日ゲストに支持されています。JSNでの掲載記事の閲覧回数からも同じ傾向が見られます。
■最後に
2024年は過去最高の訪日ゲストを迎える年に成りそうですが、2025年は大阪・関西万博も開催され、更に多くの訪日ゲストが大阪・京都を訪れる予定です。大阪での買い物や飲食、京都での伝統・文化体験と、2つの都市が一つとなって魅力を作り上げていることが、東京にはない大阪・京都の誘客の強さだと実感しています。ただし、多くのお店が情報発信に苦戦しており、訪日ゲストにもっと来て欲しいが、どうすれば良いか分からないという声も多く、今後訪日ゲストが多く集まる施設、そうでない施設やお店に二極化すると思われます。
USPジャパン シニアディレクタ 中村 哲也